うつろひ         
                           石井 綾乃

 還らざる夏をおもへばりんりんと我に降る雨をたたかひといへ

 陽炎が家燃え立たせ真昼間の深き眠りにひきずりこまる

 部屋を燃え立たす夏光にみるみると翳さす稚き葡萄(ピオーネ)の汁

 魚あまたあぎとふ夏ぞ音なくて緑なすホテイアオイの地獄

 油蝉しだいに声を張り上げて過ぐる幾日を飾らむとする

 出口なき二人の夜を忘れ蝉鳴きてはじまる秋もあらむか

 落ち鮎の苦きを食みぬしけじけと一生の秋を舌に確かむ

 夜半家は冬の音せり瞑れども汝も我も卯の耳生やす

 とほどほに女男の諍ひうつとりと夜の上海のアパートに聴く

 父が居り母居りむかし夢ありき土塊(つちくれ)ただに拡ごるのみぞ


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