日本自転車図書館協会
  
第三十三回全国大会に出席して

桑畑広(くわはた ひろし:神奈川県自転車図書館協会協会員

  

一 桑畑さんは、日本自転車図書館協会第三十三回全国大会(10月12日〜14日、岩手県宮古市浄土ヶ浜パークホテルにて開催)に、神奈川県自転車図書館協会代表としてはじめて参加されました。

 私は以前から、日本自転車図書館協会全国大会への参加を強く希望していました。しかし、なにぶん年に一度だけの大会ということと、参加を希望されている神奈川県自転車図書館協会協会員の方々が多数いらっしゃるということもあって日本自転車図書館協会第三十三回全国大会に参加させていただいたことを、たいへん光栄に思っております


 一 神奈川県自転車図書館協会前会長故前沢育太郎先生のご推薦があったとお聞きしていますが。

はい。前沢先生のお口添えがなければ、代表に選出されなかっただろうと思います。この場をお借りして、10月末に急逝された前沢先生のご冥福をお祈りするとともに、先生の成し遂げられた数々の偉業を讃えたいと思います。


一  日本自転車図書館協会第三十三回全国大会は、東北の被災地での開催となりました。

昨年の日本自転車図書館協会全国大会は、大阪府吹田市で開催される予定でしたが、東日本大震災の影響で中止となってしまいました。今年はぜひ被災地で、という意見が日本自転車図書館協会第三十三回全国大会本部に多数寄せられたと、日本自転車図書館協会第三十三回全国大会事務局長大原俊一さんからうかがいました


 一 他の交通機関ではなく、横浜から直接自転車で現地入りされましたね。 

おおげさに言えば、人生に一度の晴れ舞台ですからね(笑)。自転車をスポーク一本までもおろそかにせず磨き上げ、タイヤには通常よりも少し多めに空気をつめ、荷台の書架には粒選りの本をそろえ、神奈川県自転車図書館協会現会長池沼幸雄さんをはじめとした、数多くの神奈川県自転車図書館協会協会員のみなさんに見送られ、横浜駅西口を出発しました。そして、二日と三時間、睡眠時間以外は食事の間もほぼ自転車を漕ぎ続け、被災地入りすることができました。


 一 そこで忘れられない光景を目にされたとか。 

ええ。前夜の宿泊地をまだ暗いうちに出発し、夜明け近くに宮古駅前に到着しました。少時の休息ののち、地図を頼りに浄土ヶ浜パークホテルへ向かったのですが、なにぶん東日本大震災から9ヶ月が経過しただけの被災地ですから、道があちこちで寸断されていて、苦労した末、海に直接落ちかかる切り立った崖の上に出てしまい、そこで行き止まり、道を間違えたか、と目を凝らしてみたところ、まだ瓦礫が山積みされている波打ち際に、ごく狭い道が続いている。それが岬の突端にある、日本自転車図書館協会第三十三回全国大会が開催される予定になっている、浄土ヶ浜パークホテルへの道でした。そしてその道を、全国から集結した日本自転車図書館協会協会員たちの自転車が、重茂半島の山並みから今まさに昇りはじめたばかりの朝陽を真正面から浴び、列をなして進んでいるところだったのです。
 自分はその光景を目のあたりにした瞬間、深い感動にとらえられました。自分にとってはとうぜんはじめての、被災地へのこのように長距離の自転車での旅の末、このように多くの、日本全国から参集した日本自転車図書館協会協会員たちと相まみえ、同じ崇高な目的に向かい邁進すべく有意義な集いに参加することができるだろう我が身の幸運に、瑞喜の涙にむせぶことを、自分に禁ずることが難しかったのです。


 一 日本自転車図書館協会第三十三回全国大会はどのような内容でしたか。お聞かせ下さい。 

日本自転車図書館協会第三十三回全国大会についての詳報は、岩手県自転車図書館協会の及川由香さんの報告書が、日本自転車図書館協会機関紙「本の環」新年特集号に掲載される予定ですので、ここでは日本自転車図書館協会第三十三回全国大会に参加しての、私自身のごく個人的な印象を述べたいと思います。
 ひとことで言いますと、日本自転車図書館協会第三十三回全国大会は、期待に違わぬ、私にとって生涯に二度とはないであろうというくらい、意義深いものでした。二泊三日という限られた時間でしたが、ホテルの大会議室で行われた各県協会の活動報告、パネルディスカッション、そして小会議室で行われた分科会と、すべてが日本自転車図書館協会協会員として学ばなければならないことばかりの、実践的で中身の濃いものばかりだったからです。
 そしてまた、会議の一日のスケジュールを終えたあとの、浄土ヶ浜パークホテル大宴会場での懇親会、宿舎となっている客室に引き上げてからの、同室となった、日本全国津々浦々から集った日本自転車図書館協会協会員たちとの夜更けまでの語らい、とくに、震災直後、各県から自発的に被災地に入り、現在もボランティア活動を続けていらっしゃる日本自転車図書館協会協会員の方々の体験談は、今顧みただけでも、胸が熱くなる思い出ばかりです。


 一 今回の日本自転車図書館協会第三十三回全国大会には、はじめて世界各国の代表者も招かれたそうですね。

はい。今回の日本自転車図書館協会第三十三回全国大会で、私がいちばん感銘を受けたことを一つ挙げよと言われれば、日本自転車図書館協会第三十三回全国大会最終日の閉会式典に招かれた、世界各国の自転車図書館協会協会員による記念スピーチであったことに、ここで言及しないわけにはいきません。
 アフガンの紛争地帯で活動しているアフガニスタン自転車図書館協会協会員からは、当地でのまさに生命を賭けた自転車図書館普及活動についての報告がありました。彼が持参した、活動中自爆テロに巻きこまれた若き自転車図書館協会協会員が死ぬまで手放さなかったため、血痕がこびりつき、なお硝煙の臭いさえ消えない蔵書(残念なことに、ボロボロでどのようなジャンルの本であるのかわかりませんでしたが)に、自分もふくめ衝撃を受けない者は誰一人としていなかったと思います。
 また、ドイツ・バイエルン州で活動しているドイツ連邦自転車図書館協会協会員からの報告は、昨年惜しくも九十八歳で亡くなったドイツ連邦自転車図書館協会終身名誉協会員、ハインリヒ・フォン・ヴァルトシュタイナーが創設した、ドイツ連邦自転車豆本図書館普及活動についてのものでした。 


一 豆本ですか? 

 ええ。豆本は「読む宝石」と言われるように、単なる書物というよりは、芸術品としての高い価値を有しています。ドクトル・ヴァルトシュタイナーは晩年、故郷であるドイツ・アルプスの麓の町ガルミッシュ・パルテンキルヘンに、宝石を収蔵する宝石箱にもたとえるべき私設豆本図書館を開設しました。その美しい豆本図書館には通常の出入口の他に、どのようなわけか高さわずか五十センチの、しかしバロック風に装飾を凝らしたファサードがしつらえられてあるそうです。
 「この豆本図書館は、日中はあなた方人間のために開館しております。しかし夜がふけ真夜中を過ぎると…」来館者の疑問に、ドクトル・ヴァルトシュタイナーはこう答えるのを常としたとのことです。
 「アルプ(妖精)達が深い森の奥から音もなくやって来て、この扉から注意深くおずおずと入館するのです。そして思い思いの豆本をうれしげに抱きかかえソファによじ登るのです。もっとも…」
 そしてドクトル・ヴァルトシュタイナーは最後ににっこり笑いながら、こう付け加えるのでした。
 「アルプたちにとっては私達のちいさくてかわいらしい豆本でさえ、1756年ドレスデン版のクルト・グルントハイマー著「天体地誌学大全」にさえ匹敵する大型図書なのですがね」
  ドクトル・ヴァルトシュタイナーによって創設されたドイツ連邦自転車豆本図書館の普及活動は、ドクトル・ヴァルトシュタイナーの死後も、ドクトル・ヴァルトシュタイナーの優れた後継者達によって続けられています。ドイツ連邦自転車豆本図書館協会員の活動報告の中で、自分達自転車図書館に携わる者達にとって羨望の念を禁じえなかったことは、自転車豆本図書館の蔵書量の豊富さでした。通常自転車図書館の蔵書は一館一巡回あたり最高三十冊が限度なのですが、自転車豆本図書館の場合、一冊一冊の図書サイズの小ささを活かして一館百冊を越えることも稀ではないとのことです。いかに知恵をしぼって一冊でも蔵書を増やすか、ということが自転車図書館の運営に携わる者にとって悲願と言っても過言ではない最大の課題の一つですから、記念スピーチの合間の休憩時間には、各県の日本自転車図書館協会協会員達の間で、自転車図書館のすべての蔵書を豆本化することを緊急課題とするべきだ、だとか、いや、図書の側の問題というより、地球環境の未来のこと等も考慮すれば、それを利用する側、すなわち人類自体の体格のアルプ化(コンパクト化)が理想である、だとか、いやそんな話は画に描いた餅、実現可能なのは、建て替えによる自転車図書館一館一館の図書収蔵能力の向上(具体的には、より大型の自転車の購入及びより大型の書架の開発)なのではないか、等の意見が交換される場面が散見されたのです。


 一 しかし、記念スピーチの最後に、思ってもみないアクシデントが発生したとか… 

そうなんです。日本自転車図書館協会第三十三回全国大会に出席した、すべての日本自転車図書館協会協会員達に大きな感銘を与えた自転車図書館協会各国代表による記念スピーチの中で、ただ一つひじょうに残念だったことは、いちばん最後に予定されていた、中国チベット自治区から招待されていた自転車図書館協会協会員によるスピーチが、直前になって突然中止になってしまったことだったのです。
 スピーチの突然の中止について、日本自転車図書館協会第三十三回全国大会に参加した日本自転車図書館協会協会員の間で、さまざまな憶測が流れることとなったことはいた仕方ないことでした。スピーチ直前になってとつぜん、中国政府から日本政府を通して、日本自転車図書館協会第三十三回全国大会本部にスピーチ中止の要請が入ったのだとか、チベット自治区から北京へ移動している途中、列車の中で当の自転車図書館協会協会員はすでに中国の官権に拘束されていたのだとか、いや、そもそも中華人民共和国には自転車図書館など一館も存在しないはずであり、今回の事件は日本自転車図書館協会内の反会長派の某による悪ふざけ、噴飯物の茶番劇なのだとか、とにかくさまざまな憶測が飛びかったのです。
 ですがそのような、本質から離れた事どもよりも私の印象に深く残ったのは、日本自転車図書館協会第三十三回全国大会閉会式典のプログラムに、中国チベット自治区から招待されていた自転車図書館協会協会員によるスピーチの題目として、「空中自転車図書館の創設と実践」と記されていたことでした。空中自転車図書館!いったいそれはどのような図書館で、どのような人達が運営しているのだろう!
 もちろんスピーチ自体が中止になってしまったので、私は何一つ真実を知る事が出来なかったのですが、かえってそのことによって、自分の心の中に憧憬にさえ似た、世界各国の自転車図書館活動についてより多くの知識を得たいという大きな欲求が頭を擡げて来ることを、どうすることも出来なかったのです。



 一 日本自転車図書館協会第三十三回全国大会は、桑畑さんにとって、また日本自転車図書館協会にとって、来年開催される日本自転車図書館協会第三十四回全国大会への課題を残して幕を閉じた、ということでしょうか。 

そうですね。チベット自治区から招待された自転車図書館協会協会員によるスピーチ「空中自転車図書館の創設と実践」が、直前になって突然中止になってしまったことによって、日本自転車図書館協会第三十三回全国大会じたいがどことなく尻切れトンボ的に散会となってしまったことは、たいへん残念なことでした。そして、来年10月大阪府富田林市で開催される予定の、日本自転車図書館協会第三十四回全国大会の成功は、日本自転車図書館協会第三十四回全国大会本部長に就任されることになっている木澤拓郎さんお一人だけでなく、日本自転車図書館協会の活動に携わっている、私もふくめた日本自転車図書館協会協会員一人一人の肩にかかっている、といっても過言ではないというふうにも考えています。



一 最後に、神奈川県自転車図書館協会協会員として、また、日本自転車図書館協会協会員としての、桑畑さんの抱負をお聞かせいただけますか。

 私は現在、東北の被災地で開催された日本自転車図書館協会第三十三回全国大会から無事帰還し、気分も新たに再び神奈川県自転車図書館協会協会員としての活動を再開したところですが、神奈川県自転車図書館協会協会員としての地道でそしてさらなる充実した活動への心構えは当然のこととしつつ、ただもう一つ、再来年トルコ共和国の古都イズミルで開催される予定になっている四年に一度の国際自転車図書館協会五大陸統一会議に、自転車での三万キロ走破をも兼ね、日本自転車図書館協会代表として出席したいものだと、心の奥底に秘めた、ですが熱く大きな希望を抱くに至っております。
  

一 本日は貴重なお話、ありがとうございました。 
 

                         聞き手 : 山根 新   

                                      2011年11月11日かながわ県民ホールにて

    

 

 
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